東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)159号 判決
一 原告は、本件出願当時、電気炉に入れるべきスクラツプを炉内壁形状に対応した一個の団塊とする技術は、日本鋼管株式会社によつて既に開発されて一般に知られており、技術常識となつていたと主張する。
成立に争いのない甲第八号証によれば、日本鋼管株式会社の「NK―MC式ワンブロツク・スクラツププレス」のカタログの印刷が株式会社信行社において、本件出願の二七日前である昭和四一年三月一日になされたこと、およびこのカタログには、日本鋼管株式会社が電気炉にスクラツプを挿入する際ワンブロツクにプレスしたスクラツプ塊を挿入することにより大巾なコスト引き下げが可能になることに着目して研究を進め、NK―MC式スクラツプ・プレスを開発したこと、これを使用することにより原告の主張する(1)から(5)までの利点があることが記載されていることが認められる。しかしながら、前記甲第八号証によつても、このカタログがいつ日本鋼管株式会社に納入されたのか不明であるばかりでなく、これがいつどのようにして日本鋼管株式会社から頒布されたのかも不明であり、本件において他にこの点を明らかにしうる資料は存在しない。そうすると、前記の認定事実だけでは、日本鋼管株式会社が、本件出願日より遅くとも二七日前に、従来技術に比べて前記のような利点のあるスクラツプを炉内壁形状に対応する一個団塊とする技術を開発していたといえるにしても、この技術が本件出願当時一般に知られており技術常識になつていたとまではいうことができない。してみれば、原告が仮にこの技術を知つていて、これを含めて本件発明をしたとしても、そのような事情が出願当初の明細書に客観的に明記されていなければ、第三者はそのことを知る由がないといわなければならない。ところが成立に争いのない甲第三号証によれば、出願当初の明細書および図面には、専ら鉄スクラツプ群の圧縮集積成型体に伝熱促進個所を設けて熱伝導を高め、強圧縮した場合の溶解性を高めるという技術思想が説明されているのみで、スクラツプバンドルを炉内壁形状に対応した一個の団塊とすること、およびこのようにした場合従来の多数個のスクラツプバンドルを電気炉に投入する場合に比べてより顕著に現われる棚吊り現象を防止し(棚吊り現象とは、電気炉の上部にスクラツプの溶け残りが生ずることをいい、この欠点は、従来の多数個のスクラツプバンドルを電気炉に投入する場合に比べて、炉内壁形状に対応した一個の団塊を装入する場合の方がより顕著に現われることは当事者間に争いがない。)、スムーズに溶解させようとする技術思想は全く開示されていないことが認められる。
原告は、出願当初の明細書に記載されている「炉内において熔解し易い鉄スクラツプバンドルを作るために」という字句が、スクラツプを炉内壁形状に対応した一個の団塊とするという公知技術を想定したものであると主張する。しかしながら、この字句がそのような技術を想定したとはその文言からみて到底解することができない。
また原告は、出願当初の明細書に記載されている「炉内に装入」という字句が単数を前提とするものであり、「外隅を円形に形成してある」という字句が、本件補正後の特許請求の範囲(1)の「炉内壁形状に対応した円柱状」の成形体と全くその目的を同じくすると主張する。しかしながら成立に争いのない甲第二号証によれば、出願当初の明細書の第三頁第四行から第一三行までの説明においては、同じ文脈の中で、「炉内装入」の字句と共に「炉内投入」の字句が、特に区別されないで使用されていることが認められるうえ、その詳細な説明の全趣旨からみても、「炉内装入」および「外隅を円形に形成してある」という字句に原告主張のような特別な意味内容があるとは解せられない。
二 してみれば本件補正却下決定に原告主張の誤りはないから、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。